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2019.09.10

リモセン雑感2|グッドデザイン賞の審査基準の変化からの連想

星野 卓哉 (経営コンサルタント)

おそらく、公益財団法人日本デザイン振興会主催の「グッドデザイン賞」を知らないビジネスマンは少ない。しかし、2013 年、経済産業大臣賞にあたる「グッドデザイン金賞」をJAXA (宇宙航空研究開発機構)のイプシロンロケット(Epsilon Launch Vehicle)が受賞したことはどれほどの方の記憶に残っているだろう。

47,000件以上!これは1957年に創設された日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の仕組みである同賞のこれまでの受賞件数である。受賞対象部門・ユニットは生活プロジェクト、情報機器、モビリティ、医療、店舗、住宅、コンテンツ、サービスなど、非常に多彩である。イプシロンロケットは「公共の移動機器・設備」に分類され、審査対象3,400件の中からベスト100に選出され、「モビリティ部門」から金賞受賞となった。

実はグッドデザイン賞の審査基準はこれまで10数回も改訂されてきた。例えば、イプシロンロケットが受賞された2013年度の審査基準には、その具体的な審査視点として「人間的視点」「産業的視点」「社会的視点」が明示されているのに対し、2016年度の審査基準には初めて「時間的視点」が加えられた。この時間的視点を具体的に言うと「過去の文脈や蓄積を活かし、新たな価値を提案しているか」「中・長期的な観点から持続可能性の高い提案が行われているか」「時代に即した改善を継続しているか」といった内容である。

なるほど、と思う同時に、思わずあることが浮んできた。衛星リモートセンシング関係者の方にとってはいうまでもないが、昔から地球観測衛星を語る時に「空間分解能」という大事な指標に言及する場合が多い。しかし、グッドデザイン賞でいう「時間的視点」と同じ意味ではないが、近年では「時間分解能」という用語もよく多用されるようになった。

空間分解能とはなにか、時間分解能とはなにか、はじめて衛星リモートセンシングの世界に関心を持つ皆さんにとっては、このように聞きたくなるだろう。

空間分解能とは、地球観測衛星に搭載されたセンサが、地上の物体をどれくらいの細かさまで見分けられる(分解できる)かを示す指標である。例えば、1999925日にアメリカのSpace Imaging(Digital Globe)が打ち上げたIKONOSという地球観測衛星の空間分解能は1mだったが、2014813日に同社が打ち上げたWorld View-3という地球観測衛星の空間分解能は30cmである。これは、前者は1m四方、後者は30cm四方の大きさの物体が画像上1ピクセルとして表示されることを意味する。

一般に1m空間分解能の衛星写真(「衛星画像」ともいう。)では車の検出は幾分不確かであるが、50㎝空間分解能の衛星写真では車のフロントガラスの形が分かり、30㎝空間分解能の衛星写真では車のサイドミラーが検出できるとされている(葛岡成樹「最近の地球観測衛星の動向」日本航空宇宙工業会、第730号)。ちなみに、軍事用の偵察衛星も地球観測衛星といえるが、その空間分解能はきっと高いだろうと推測(笑)。

では、時間分解能とは何か。時間分解能という概念自体は従来から存在するが、これは地球観測衛星から同一個所に対して撮影できる最小時間間隔をいう。つまり時間分解能は地球観測衛星による観測の頻度である。この時間間隔を短くするためには、前回で述べた超小型人工衛星の活躍も期待されている有力な一手である。

もし空間分解能は特定の場所に対して、どこまで効果的な「俯瞰」ができるかの指標をいうなら、時間分解能は特定の場所について、どれほどその「変化」が見えるかをいうような指標となろう。何が見えるか、どこまでどのように見えるか、見えたからと言ってどういう意味があって何に資するのか、ときに思わずに考えてしまうよね。

昨今、時間分解能が昔よりも一層重要視されてきたのはなぜだろうか。それまでの変化からこれからの変化を予測することはいつの時代でも求められてはいるが、どのような課題解決のために、どのように衛星写真を活用するならよいのか、何を観測の対象と設定し、どのような経年変化などを把握できる場合、何かの新規サービスの開発に資していけるのか、この「リモセン研修ラボ」でも、何かのヒントを得られたらとても嬉しい。

リモセン雑感1|ちょっとだけ、超小型人工衛星にまつわる話

リモセン雑感3|問題提起!衛星写真ビジネスの議論の死角か

星野 卓哉(ほしのたくや)

経営コンサルタント。
長年、衛星リモートセンシング業界にも身を置き、
調査研究、経営コンサルティン、新規サービス開発、人材育成などに取組む。
産学官各界における講演多数。

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