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2019.10.11

リモセン雑感3|問題提起!衛星写真ビジネスの議論の死角か

星野 卓哉 (経営コンサルタント)

いつからか、日曜日夜になると見ようかと思う番組がある。2019930日現在、平均視聴率は20.8%も記録した朝日テレビの人気番組「ポツンと一軒家」である。時々、険しい山道の途中で立ち往生する一台の取材ワゴン車は視聴者の気持をドキドキさせながら、ついに人里離れた場所にいるポツンと一軒家に辿り着き、その主人公の独特な人生に迫っていく。この番組の出発点は1枚の衛星写真からである。

一般の方にとっては「衛星写真」という言い方のほうがイメージしやすいだろう。業界では衛星写真よりも「衛星データ」とか「衛星画像」または「リモセンデータ」など、多様な言い方が多用されている。昔、衛星データと聞いてすぐ「衛星からの数字か」と誤解していた時もあったが、いまは何かを限定的に指すことが必要な場合は別として、これらの用語は基本的に同義だと理解している。

2019221日、経産省が推進し、さくらインターネット社が提供する日本初の衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」がオープンした。続いて2019515日、経産省は「経産省及びJAXAは、Tellusを通じて、JAXAの人工衛星『つばめ』の観測画像を公開します。これにより、高頻度観測による新たな衛星データ利用の創出を目指します。」と発表した。

衛星リモセンの初心者の方なら「なにそれ」と聞きたくなるかもしれない。「Tellusは、政府衛星データを利用した新たなビジネスマーケットプレイスを創出することを目的とした、日本初のオープン&フリーな衛星データプラットフォームです。複数のデータをかけ合わせ、新たなビジネス創出を促進するためのあらゆるファンクションを提供します。」とTellusはこのように自己紹介する。

要は、Tellusは衛星写真などを活かした新たなビジネスの創出などの支援を目指したプラットフォームである、と言ってもよかろう。

筆者もこの目的には嬉しく共感する。と思ったところ、Tellusのトップ画面にある「さあ、宇宙データビジネスをリ・デザインしよう。」というメッセージが目に入る。そこでいう「宇宙データ」とは衛星データ(衛星写真)よりも広い概念かと捉えられるが、それより重要なのは「・・・データビジネスをリ・デザイン」、すなわち「・・・データビジネスをもう一度構想しよう」ということである。もちろん、筆者はこのリ・デザインにも強く同感だ。

従来なら、衛星写真の利用といえば、行政利用、研究利用、商業利用というように分けられるが、商業利用の割合は依然として少ない。しかし、「宇宙ビジネスの新時代」と謳われている中で、これからは、商業利用、言い換えれば衛星写真ビジネスも含めて、新たなビジネスの創出が広く熱く期待されるだろう。

2019724日、内閣府宇宙開発戦略推進事務局は、前年度に引き続き、2019年度「課題解決に向けた先進的な衛星リモートセンシングデータ利用モデル実証プロジェクト」として、農作物の作付面積、サトウキビ営農支援、ワイン用ブドウ精密栽培システム、乱気流予測など、7件を採択した。この事業では、実証に当たっては、衛星データを活用したサービスを提供する者と、実際にそのサービスを自らの事業等に利用する者が同じチームとなることで、エンドユーザーのニーズを踏まえた真に使えるサービスの創出を図る、とされている。

衛星写真の利活用への参入障壁をできるだけ下げるべく誕生したTellusも、そのような利用モデル実証プロジェクトも、最終的に新たな衛星写真ビジネスの創出に繋がることは、言うまでもなく、喜ばしい。一方、世の中、新たなビジネスの創出をめぐる議論は、いまだにリモセン技術論が主流であり、ビジネス創出論があまり見られない。これで「宇宙データビジネスのリ・デザイン」が実現されるだろうか。

筆者は、ビジネス創出論の不在が衛星写真ビジネスをめぐる議論の死角になっているのではないか、と指摘する。なぜそれを死角というのか、どうしてその死角を問題視しなければならないのか、死角をなくすアプローチはあるのか。ぜひ次回のコラムでお会いしましょう。

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星野 卓哉(ほしのたくや)

経営コンサルタント。
長年、衛星リモートセンシング業界にも身を置き、
調査研究、経営コンサルティン、新規サービス開発、人材育成などに取組む。
産学官各界における講演多数。

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