VOICE受講者の声

2021.08.04

■ インタビュー企画 ■ 三祐コンサルタンツ研修受講者様にお話を聞きました

農業・農村整備事業、農業土木のコンサルティングを行っている 株式会社三祐コンサルタンツ海外事業本部で活躍されており、20216RESTECの『 農業分野におけるリモートセンシング実務者講座 』のオンサイト研修を企業研修としてご受講くださった野々下様にインタビューしました。

 

プロフィール

野々下 萌
所属 : 株式会社三祐コンサルタンツ 海外事業本部 技術第1部 技術課 技術員

2015年 九州大学農学部生物資源環境学科卒業
2017年 京都大学大学院地球環境学舎環境マネジメント専攻修了
2017年 三祐コンサルタンツ入社(国内事業本部)
2018年 国内事業本部から海外事業本部へ異動

 

大学では農業土木を専攻し、農業の生産基盤や植物の生産環境など「農業生産」に関する知識を学び、その後大学院では、農業から農村に視野を広げ、国内にて農村コミュニティに係る地域研究を行った。途上国での食料問題に興味があり、食料生産の基盤に携わる仕事がしたいと思い三祐コンサルタンツに入社。海外事業部配属後、ミャンマーやインドネシアにおける農業・農村開発案件に携わり、農家調査、営農地域計画の策定支援、フードバリューチェーンに係る聞き取り調査などを行ってきた。現在はエチオピアにおけるインデックス型農業保険促進プロジェクト、アフリカTICAD8に向けた情報収集・確認調査に従事している。

 

海外事業本部でのお仕事はどのようなことをされていますか?

私自身は農学部出身で農業生産の向上のための案件に携わってきましたが、2019年からはエチオピアにおけるインデックス型農業保険促進プロジェクトに従事しており農村調査、ジェンダー支援、営農普及を主に担当しています。インデックス型農業保険とは、雨量や植生、収量などを一つのインデックスに指定した指標を下回ると一律で保険金が支払われるのですが、従来の作物保険と異なる点は、災害が発生した時に作物の査定をする必要が無いため、迅速な保険金の支払いが出来ることが特徴になっています。インデックス型農業保険の普及体制を構築することによって農村のレジリエンスの強化を目指しています。

エチオピアでは小規模農家が多く天水農業(灌漑を行わず基本的に降水が水分供給源の農業)が中心なので、干ばつなどの自然災害に対して脆弱性が高い地域となっています。それによって生産性持続の危惧や干ばつが続くことによる食料支援・人道支援が必要になる事態からなかなか抜け出せないことが課題とされています。 プロジェクトの期間の半分が終わりますが、これまで対象地域のベースライン調査、保険販売員の育成、それに伴うマニュアル作成、女性農家の聞き取り、農業資材の支援などを行ってきました。

 

プロジェクトの中に含まれるジェンダー支援はどのような背景から生まれているのですか?

ジェンダー支援は特に女性への啓蒙活動を行っています。エチオピアでは男性が主に農業を商いとして担い、女性は家庭菜園などの小規模自給用をメインに栽培をしているという現状があります。そのため農業の技術普及は男性だけに集中し、農業資材・農業技術や農業に関する情報へのアクセスも男性が優位である一方、女性は研修の機会を得られず男女の格差が生まれていることが課題になっています。

保険商品の購入は夫婦で話し合って決めて欲しいのですが女性には情報格差があり、それに伴い意思決定の場に立ち会えないことが多く支払われた保険金が女性には還元されないことも危惧されています。そこでリスクマネジメント研修を行い夫婦で参加してもらうことによって女性にも平等に情報へアクセスする機会を増やそうとしています。 

私たちは農業技術の普及も行っていますので、既存の現地女性グループをトレーニングに呼ぶなど多くの女性を巻き込んでいく仕組みづくりをしています。現在はコロナ禍で現地へは行けないので直接的には効果が分からないのですが、農業普及トレーニングへ女性の参加が少しずつ増えてきています。

 

リスクマネジメント研修を行う目的は? 

エチオピアの対象地域は干ばつが多いエリアなのですが灌漑施設を持っておらず、天水だけで農業をしています。そのようなところでは病害虫や少雨などの農業リスクがあります。そこでこのプロジェクトでは「リスクマネジメント」という考え方を大事にしており、それぞれのリスクに対応した技術を選定し普及することにより農業生産の安定化促進し、レジリエンスの強化に向けての大きな柱としています。 

具体例としては、少雨への対策は畝を高めに作り雨を貯めやすくする農法を伝えたり、作物の種まきをする際にはばら撒くのではなく、まっすぐ植えるラインプランティングをすることで生産管理がしやすくなり収穫量が増えることを伝えたりしています。またいくつかの植物を一緒に植えることにより病害虫の発生を抑制できる技術を伝えるなど、大きな設備投資が不要で既存のもので出来る技術を普及させています。

インデックス型農業保険はリスクファイナンスで干ばつ後の被害を補填するという事後対策ですが、普段の農業活動におけるリスクコントロールも大変重要になっています。リスクそのものを未然に防ぐ、のリスクに対応しうる農業技術の普及を目指しています。

 

インデックス農業保険への加入もリスクマネジメントになりますか? 

昨今は気候変動の影響が大きく、干ばつの頻度が増えてきて徐々に悪化してきている心配はありますが、干ばつが来る前までに適切な農業技術を導入することにより作物の収量を上げておけば所得が急激に減ることが避けられます。加えてインデックス農業保険へ加入していれば、干ばつ後に保険金をもらうことですぐに次の作期のための種子や必要な資材の購入に充てることも出来ます。保険加入の促進はすぐに復活することができるレジリエンスの強化をうたっています。 

このプロジェクトは現地の保険会社もメンバーの一員になっています。彼らの役割は保険の販売員研修を行い、村々への戻った販売員による保険販売の管轄です。農業保険の販売が順調に進めば保険会社も儲かり、農家も助かる循環が生まれようとしています。 

 

HPのメッセージ「たすけの心たすけの喜び」はとても印象的ですが、お仕事をされる時に意識されることはありますか?

このメッセージを言い換えると、サブタイトルの「技術を以って世界の人々の幸せに貢献する」ということなのですが、私自身思い当たることがあります。エチオピアでの仕事は農業保険というモノ売る単純な作業ではなく、普及体制を考える、さらにはそのインパクトを出来るだけ大きくする必要があります。その中ではいろいろな試行錯誤がありますが一人では決して成しえない、チームとしての知識と技術の集大成があってこそ成せるものだと考えています。日本人と現地スタッフとの助けがあってこそ、プロジェクトが進んでいるということは常に実感していますので、その瞬間に「たすけの心」を感じます。 

たすけの喜び」については実際にはまだ感じ切れていないところではあるのですが、現在のプロジェクトで保険の購入者が増えてそれにより現地の人々の農業活動に役立ち、エチオピアの国全体が良い方向へと変化が見られた時に「技術を以って世界の人々の幸せに貢献」した成果として「たすけの喜び」を実感できるのではないかと思っています。

 
今回、『農業分野におけるリモートセンシング実務者講座』をRESTECに依頼した背景は?

背景として主に2つあります。
1つはこれまでお話したエチオピアの農業インデックス保険の案件で、使用している指標の一つに衛星で観測されたNDVI(正規化植生指数)を使用していることや、ドローンによる圃場センシングなどにおいてもNDVIというキーワードを耳にすることが多くなったことから、リモートセンシングへの関心が高かったことがあります。これまでもドローンによる観測や衛星データの活用に関する研修などに参加してきましたがさらに踏み込んだ勉強をしたいと思い、以前RESTECの研修を受講した社内の先輩から紹介してもらい興味を持っていました。

2つ目は昨年、社内でDXのワーキンググループが立ち上がり、アグリテックの最新の情報共有や案件におけるアグリテック活用の検討や促進を行っています。昨今の案件内容にもDXやアグリテックが含まれてくることが増えてきましたので、そのような案件の受注へ向けて積極的になっているという社内の潮流もあります。私自身もアグリテックの促進に関わっていることもあり以前から関心が高く、ゆくゆくはドローンの操縦資格の取得などリモートセンシングの実践的な技術の習得を目指しています。社内でのリモートセンシングに対する抵抗感を無くし最低限の知識を持つ必要があると感じています。私自身も苦手意識がありましたのでそれを拭いたい背景から受講してみようと思いました。 

またちょうど今年の6月ごろからある大学とドローンを活用した水稲の収量調査手法についての検討を行う共同研究が始まり、そちらでもGoogle Earth Engineを生かしたいという考えも後押しすることにもなりました。

これまでもいろいろな研修を調べたり受講したりして基礎的な知識の習得は出来たのですが、実際にどのように使用するのか分からずに終わっていました。今回のRESTECの研修では講義の後に実習が伴いましたので、そういった面では今回は充実した意味のある研修となりました。他の参加者からも実習できたところが一番良かったという声を多く聴きました。

 

研修後、何か業務でお役に立てたことはありますか?

未だ研修後それほど経ってはいないのですが、過去のリモセン関連のプロジェクト報告書や資料を見るときに、具体的にイメージしやすくなりました。先日もドローンによる圃場撮影をした結果の共有が社内にてありましたが、手順や内容の説明についてもNDVIの出し方や実際にQGISの手順なども実習をやったおかげで理解のスピードが速くなったと実感しました。かなり違いますね。

また一緒に受講したメンバーと共通知識を持つことにより業務がスムーズに運ばれていくのも大きなメリットになると思います。特に若手が新しく高度な技術を身につける機会やモチベーションの向上にも繋がりました。若手が共通意識を持っていると案件の中で新しい提案や柔軟な発想が生まれ、それが連鎖していくことでより良いプロジェクトの実施や案件の提案が出来ると思っています。

 

今後、リモートセンシングの活用はどのようにお考えですか?

アフリカにおいては近年アグリテックが導入しやすい環境となっていると感じています。リープフロッグ、つまりガラケーが流行る前にスマホが入ったり日本よりモバイルマネーが進んでいたりと一段飛ばしで技術が導入されています。三祐コンサルタンツとしてはアフリカ、そしてアジアの国々、特にミャンマーやベトナムなどで得意としている農業の知識や技術と共にリモートセンシングを活用していければと思っています。

 

リモートセンシングへの期待などありましたらお聞かせください

農業分野においては農業機械の最適走行ルート、作業の最適化が更に促進すればいいな、と思っています。途上国の農家では集団化をして農業機械を保有したり、サービスプロバイダーが貸し出したりするケースが多いのですが、そのような集団へ衛星データが役立ち農業機械の受益者がさらに増えていけばいいなと思います。

また、営農活動による意思決定の最適化に貢献するということも期待しています。土壌や作物の状態を広くデータで得ることによって、施肥のタイミングやどのような作業をいつ行うか、などが判断しやすくすることにより余計な労力やコストを省くことに繋がっていくと思っています。

農業分野において鳥の目虫の目といいますが、鳥の目部分が大きく進歩することにより作業効率の向上や作物の品質向上に寄与すると思っています。途上国においては鳥の目で俯瞰する部分はまだまだ未発達で、それが生産性の低さにも起因しています。そういった面でもリモートセンシングの活用が途上国における農業生産においてより身近になって食料の生産性の向上に結び付いていくことを期待しています。

高度な技術は敬遠されがち、難しいと思われがちですが、近年ではデータドリブンアグリカルチャーというデータに基づいた農業をするということが叫ばれていますので、全世界でもリモートセンシングはより重要になってきている潮流かと思います。リモートセンシングは情報を得るとても役に立つ技術ですので、これからデータに基づいた農業を促進していく上で、国内外問わず非常に重要になってくるのではないかと思っています。

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