VOICE受講者の声

2021.02.12

■ 対談企画 ■ アクセルスペース研修受講者 × RESTEC研修担当

株式会社アクセルスペース様向けに今年度2回目となるオンサイト研修をオンライン形式で行いました。講師を務めた道下亮と、本研修の内容構成等を企画されたアクセルスペースの担当者で衛星運用マネージャーのAlfonso Arbona Gimeno様との対談をお送りします。研修終了1週間後にこの対談が実現しましたので、研修内でのやり取りなどの背景も聴くことが出来ました。小型衛星を打ち上げ観測されたデータを提供する側のアクセルスペースと、観測されたデータを分析する側のRESTEC、立場は異なりますがこれからの宇宙産業に対する想いやこれからの課題など熱く語り合いました。
研修での使用言語は英語で、今回の対談も英語で行いました。

プロフィール

Alfonso Arbona Gimeno

スペイン・バレンシア出身
バレンシア・ポリテクニク大学において電気、ロボティクス、オートメーション専攻の修士課程在学中に名古屋工業大学の人型ロボットの制御システムに関する修士論文を執筆する奨学生に選ばれて来日。卒業後は日本の大手自動車メーカーの研究開発センターに勤務した後、2017年より株式会社アクセルスペースに入社。GRUS-1A搭載システムのソフトウェア開発を担当した後、現在は画像センサ、望遠鏡、ストレージなど衛星のミッションをまとめるユニット長、及びGRUS衛星の運用責任者を務めている。

 

 

道下 亮

日中米の大学等における15年以上の研究活動を経て2016年よりRESTECへ加入した異色の経歴を持つ自称・リモセン博士。光学時系列データを用いた土地被覆変化のモデリングやデータフュージョンなどの衛星ビッグデータ分析に精通。近年は作物の収量予測や稲の作付け地の抽出など、衛星データの農業分野へ利活用に関する業務に従事するとともに、衛星データ利活用促進のためのキャパシティビルディングやユーザリレーション構築に奔走中。

 

 

アクセルスペースの業務とアルフォンソさんのお仕事について

道下亮(以下、道下): 今日はありがとうございます。確かアルフォンソさんは、衛星組立てのマネージャーですよね?

Alfonso Arbona Gimenoさん(以下、アルフォンソ) : 2つ役目があって、画像センサ、望遠鏡、ストレージなど衛星のミッションをまとめるユニットのリーダーと衛星運用のマネジメントやっています。現在、弊社で運用している衛星は1機ですが、もうすぐ5機体制になるため、そのマネジメントをしています。

道下 : この対談が決まってから改めてアクセルスペースのホームページを拝見したのですが、「宇宙を普通の場所に(Space within your reach.)」を企業ビジョンに掲げられていますよね。アルフォンソさんはエンジニアとして、このビジョンに基づいて何を実現したいと思っていますか?

アルフォンソ : 顧客が望むことを理解し、衛星を使って顧客の要望や課題に応えたいと考えています。そのためには、衛星を正しく運用する上で、顧客側でどのようにデータが使われているのかを知ることも必要だと考えています。それが今回、RESTECへ研修を依頼した理由でもあります。弊社のエンジニアはタスクの中ですべきことを自分で考え、それを形にできているので、衛星を作ることを楽しみながら仕事をしています。ただ、その先には顧客がいて、彼らが衛星データを使うわけですから、我々は彼らの要望を実現できるように衛星を開発・運用することが重要です。顧客のために衛星を作ること、それを忘れてはなりません。

道下 : 単に衛星を作って打ち上げて運用するだけではなく、顧客の利便性も考えて開発・運用するというのはとても重要なことですよね。ビジョン「Space within your reach」の下で生まれたコンセプトや考えなどを衛星として具現化する上で、アルフォンソさんはどんなことを心に留めていますか?

アルフォンソ : 運用計画であればどうやってデータが使われるのかを考えて、運用設計をするようにしています。例えばどのくらい大きなメモリを持っていて、どうやってデータが使われるか、どうやって最適化させるか、などですね。

 

衛星を作り運営していく上でリモセンの知識を持っておく重要性について

道下 : 以前、私はASTER(米衛星Terraに搭載、1999年打ち上げ)サイエンスチームのお手伝いをしていたのですが、センサ開発者はデータ利用者にどのように使ってもらいたいか、また、データ利用者はセンサ開発者にどのようにデータが使えるのか、どのような設計をして欲しいか、などの意思疎通が不足していて、センサ開発者とデータ利用者の間で見えない高い壁をあったように感じました。それは20年経っても変わっていないのが現状です。しかし、この状況は民間の小型地球観測衛星製作・運用企業が数多く出現して衛星データが多様化してきている今日、この状況を御社のような企業が触媒となって変えられるのではないか、と個人的には期待しています。この点について、アルフォンソさんはどのように考えていますか?

アルフォンソ : 過去の良い点・悪い点を踏まえた上で、不要なことを取り除くというスタンスでの議論が必要だと感じます。データ校正はデータ利用者がやることではなくデータ提供者が行うことで利用者の作業を最小化し、利用者にとって不必要な作業を取り除くことを考える必要があります。そうすることで衛星データはより身近なものとなり、利用が促進されていくのではないでしょうか。

道下 : NASA(アメリカ航空宇宙局)やESA(欧州宇宙機関)も最近ではARDAnalysis-Ready Data)と言って大気補正のプロダクトなども出していますね。

アルフォンソ : 彼らはそこまで行き着くのに40年という長い時間がかかっています。我々のような新しいデータ提供者は早く利用者の需要に応え、迅速に開発を進めていく必要があります。

道下 : 確かにデータ提供者側はあまり利用者にやさしくないですよね。ARDなのにマニュアルが必要な状態ですし、ソフトウェアも商用ベースです。QGISのようなフリーのソフトウェアも出てきましたが、データの解析手法に関するアルゴリズムはまだまだオープンじゃないですよね。大学の授業で採用されるような参考文献も難しい式ばかりで具体的な解析方法は書いていませんし。今後、こういった部分もオープン&フリーが進むと、さらに衛星データは身近になり利用が進むと思っています。

 

今回の研修について率直な感想

道下 : データ提供ではありませんが、RESTECが提供しているキャパシティビルディングのスタイルも大きく変わりつつあります。これまではRESTEC本社(東京都港区)に来て集合研修で受講いただいていたのですが、COVID-19の感染拡大予防のために今年度は全てオンラインに変えています。意外だったのですがオンラインになると、受講者や受講を検討されている方からさまざまな要望が届くようになり、今までより更に柔軟な対応が求められるようになってきました。

アルフォンソ : 今回もこちらの要望を多く汲んで研修をしていただきましたが、質問があちらこちらから飛び交い、それに迅速に対応していただいたのがありがたかったです。

道下 : 今年度、RESTECに依頼いただいた研修ですが、1回目はリモートセンシング基礎講座をベースにしたもの、そして2回目となる今回は光学リモートセンシング講座をベースにした内容をご要望いただきましたが、このような構成での研修を要望された理由について聴かせてください。

アルフォンソ : 1回目は衛星開発のエンジニアだけでなく営業やデータ処理チームのデータサイエンティストなど社内の様々な部署の人が受講しました。皆でリモートセンシングの基礎知識に関する共通認識を持つ必要あったため受講者はバラエティに富んでいました。今回は衛星運用のエンジニアを中心にしましたので受講者層や目的が異なりました。データを提供する上でどういうことに気を付ける必要があるか、例えば大気補正などについてもっと深く知りたかったのです。

道下 : 今回の研修はいかがでしたか?

アルフォンソ : 例えば、データに含まれるノイズのことは驚きましたしとても興味深かったです。こういったことは私にとって非常に重要なのです。なぜなら、我々が提供するデータはまだ改善途中にありますし、通常我々衛星運用のエンジニアはデータ解析をしないので、利用者の立場からどう見られているのかという情報は有用なことです。実習ではQGISを使って土地被覆分類をしましたが、受講したあるメンバーの結果では海洋の一部に都市が分類された画像ができていたのも面白かったですね。それによってエンジニアはこのような問題をどうやって解決するか、どう改善するかを考えるヒントになります。

道下 : 私も教えていて楽しかったです。皆さんがデータノイズについてあまり知らないことは私にとっても驚きでしたし、データ利用者側のデータノイズに関する考え方をお話しできてよかったです。他にもハイパースペクトルセンサの設計について具体的なアイデアを基にして議論できましたし、なによりそういったことをセンサ開発者の皆さんと議論が出来たことは私個人としても非常に有意義でした。

アルフォンソ : 我々はセンサによって採用するバンドを選ぶ必要があります。例えば、多くの波長帯の中からどの8バンドを選ぶのかとか、もちろん研究に基づいて選択する必要がありますが、エンジニアからするとなぜそのバンドが必要か、そういったことを研修中に議論できてうれしかったです。

道下 : このように立場の違う者同士で議論の機会があることは有意義でしたね。勉強会のような雰囲気もありました。このような機会が研修だけではなく、またどこかで何らかの形で出来れば、センサ開発者とデータ利用者との交流が促進されて、面白いコミュニティが形成されるかもしれませんね。

アルフォンソ : アクセルスペースではGRUS衛星(次世代型超小型地球観測衛星)を運用していますが、第2のペイロードを載せられます。例えば、どんなセンサを搭載するかを議論する際に、このような機会の場は大歓迎です。いろんなことが議論できる可能性がありますが、例えば新しい種類のセンサへの意見などをもらえると、お互いにメリットが生まれてよいと思います。

道下 : そうですね。RESTECキャパシティビルディングの実績がありますし、実践的なデータの利用実績もたくさん持っています。我々が持っているこれらの膨大な知見はセンサ開発にも有用になると思います。データ利用のための情報をセンサ開発者が利用者と交換することは必要なことです。例えばRESTECが開講する研修で衛星開発者としてアルフォンソさんが我々の外部講師になり、衛星開発とユーザとの間で知見を共有することもできますよね。

アルフォンソ : センサ開発者とデータ利用者、例えばアクセルスペースとRESTECが一緒に何かをやっていく最初のステップとして、我々の衛星画像をRESTECに見てもらってフィードバックしてもらうというのも良いかもしれませんね。

道下 : 例えば我々の研修の教材としてデータを使わせてもらえたら、お互いのプロモーションにもなります。受講者にはアンケート回答に協力してもらいフィードバックをいただく機会も生まれますし。こういった利用者から直接コメントをもらう機会というのは意外と少ないと思うのです。

アルフォンソ : GRUS衛星はもうすぐ5機体制になり、撮影頻度が上がりますので時系列分析データの提供も可能になります。実現するには様々なステップがありますが、何らかの形で一緒に活動してデータ利用者からフィードバックがもらえたらとてもありがたいですね。

 

どのような未来に進んでいきますか

道下 : 最後に、御社が多くの衛星を打ち上げ続け運用する中での将来への展望を聴かせてください。

アルフォンソ : 皆さまがどのような分野での利用に関心を持っているのか、というところに強い興味があります。分野によって、小さい領域で高分解能の画像を利用したい顧客もいれば、大きな領域で使用するため高分解能は不要だという方もいらっしゃいます。例えば火災のホットスポットの検出や、作物の収量予測にはどういったデータを必要としているのか、RESTECが数多く持っている衛星データの適用に関する知見は、我々にとっては利用者の視点を直接知れるという意味でとても重要なものです。

道下 : 我々にとっても、利用者がデータをより簡単に使えるようになることは衛星データの普及と直接リンクしてくるので、私個人としてはセンサ開発者とデータ利用者が同じテーブルに座って言葉と考えを交わす機会がどんどん増えていけばと思っています。ミッションの中にある「 Space Part of Their life 」について、今後どのように進めていく予定ですか?

アルフォンソ : まず、運用衛星を多くすることで対象エリアの撮影頻度を上げ、顧客の要望やアイデアに対応してデータを提供し、そこでフィードバックを得て今後の衛星システムに反映するということですね。それと衛星データをより早く低価格で提供するために、衛星運用やデータ処理を自動化して人間を介さずにできるようにしたいです。人間が処理をするとどうしてもエラーが発生することがありますが、AIを使えば同質化も実現できるのではないかと期待しています。

道下 : 衛星データがより廉価で迅速に提供できるようにするためには、利用者が何を要望しているのかという情報はますます重要になってくるでしょう。そこに目を向けて衛星やセンサを開発し運用してくだされば、アクセルスペースは古い業界と新しい業界の壁を取り払っていると思います。昔からあるRESTEC1975年設立)ですが衛星データの利用促進のため、センサ開発者側と今後も議論を続ける機会を作っていきたいですね。

アルフォンソ : RESTECがリモートセンシングの利用を促進して、業界の発展をけん引してくれると我々も嬉しいです。他の国でも似たような小型衛星ビジネスが盛んですが、我々は12年前から活動しているパイオニアですので、個人的な意見ですが、どんどん弊社ならではの新たな価値を提供していきたいですね。これからもセンサ開発者とデータ利用者が対話をする色々な機会を得て、会社の発展、ひいてはリモートセンシング業界の発展に寄与していきたいです。

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