リモートセンシングの基礎知識をお持ちの方で、SARデータをこれから扱いたい方を対象に開講しているSARリモートセンシング講座は、SARセンサの仕組みや解析技術について、実習でソフトウェアを使用しながら理解し、総合演習で実践的に課題解決できる技術を身に着ける講座です。ここでは、2021年6月10~11日に開講したSARリモートセンシング講座で実施された総合演習の結果をご紹介いたします。
1.スエズ運河の通航量について ~貨物船座礁事故、およびコロナ禍の影響の有無~
背景
・2021年3月23日、大型コンテナ船Ever Given号が座礁しスエズ運河を1週間ほど塞ぎ海運が滞った
・同29日に離礁し30日には通航が再開されたが、事態解決までには237隻が順番待ちをしていた
目的
船の渋滞状況をSAR衛星画像で判別し、いつ頃正常に戻ったかを調査する (2021年3月、4月の時系列変化抽出)
Ever Given号
船型:20,000TEU積みコンテナ運搬船
全長:399.98 m
全幅:58.80 m
結果1.カラー合成
事故前:2021年3月13日 事故後:2021年3月25日
・事故後(右側)には船が運河を塞いでいる状態が確認できる
・一方、スエズ湾内には船舶数が増加。等距離、同方向で整列しているのでアンカーを下ろして停泊中と推察できる
・事故前(左側)の東岸の赤色帯は藻場または、干潮で陸地が現れたと推察
事故後:2021年4月6日(通航再開1週間後) 事故後:2021年4月18日(通航再開約3週間後)
・通航再開1週間後(左側)は湾内及び運河内での船間が近く混雑していると推察できる
・一方、通航再開3週間後(右側)は船間がとれており、湾内の船舶数も事故前の3月13日より少ない
結果2.変化抽出
1.3月13日→3月25日 2.3月25日→4月6日
3.3月25日→4月18日
1.3月23日に座礁後2日間で湾内の船隻数が増加していることが確認できる
2.3月30日に通航再開後1週間経ち、運河内を進む船舶が確認できる
3.通航再開約3週間後の湾内は、船隻数の減少が確認できる
2.ブラジル北部の熱帯雨林の森林伐採の判読と伐採領域拡大傾向の把握
目的
森林伐採が空間的にどのように広がっているのか、その傾向を把握する。 →今後、伐採が活発化する地域の予測にもつながるのではないか?
解析データ
2006年12月2日と2010年12月13日の2時期のALOS/PALSARのHH観測データ(後方散乱係数[dB])
Smoothing filter(3×3ピクセル)→後方散乱係数に変換→マルチレイヤ形式に変換
結果
2シーンのグレースケール画像により調査した結果、画像中央に流れる川の西側において2006年から2010年にかけて、後方散乱係数が著しく低下している地域がいくつか見られた(Fig.2(a),(b))。この地域をGoogle衛星写真で見ると森林ではなく耕作地および人為的な区画であった(Fig.1) 。
一方で川の東側では逆に、2006年から2010年にかけて後方散乱係数が高くなっている地域が見られた。こちらの地域もGoogle衛星写真で耕作地および人工的な区画として認識できる。
これらの傾向は2006年を赤、2010年を緑・青に割り当てた合成カラー画像でみても明らかにとらえることが出来た(Fig.3)。
Fig.1 本解析領域におけるGoogle衛星写真
Fig.2 (a)2006年、(b)2010年の後方散乱係数グレースケール表示
Fig.3 2006年と2010年の後方散乱係数を用いたRGBカラー表示(R; 2006、G, B; 2010)
考察
・解析領域において2006年から2010年にかけて森林伐採が盛んであった地域は、川の西側に多く存在していることが推察される。一方、川の東側で後方散乱係数が上昇しているのは過去に伐採が行われ、その地域に人為的および自然的に植生している可能性、または建物が建設された可能性が高いと考えられる。
・解析領域より東側には耕作地および人工的な区画が広大に広がっていることを考慮すると、東から西へと森林伐採が盛んな領域が移動している傾向が示された。
3.シンガポール港の船舶、コンテナ検出
目的
コンテナ取扱量世界第2位のシンガポール港をSAR画像により停泊する船舶やコンテナの移動の判読する。
Sentinal-1について
2時期のSAR画像をカラー合成して、変化抽出を行った。
REDに2021/5/26、GREENとBLUEに2021/6/7のデータを挿入。
Sentinal-2について
SARによる変化抽出の確認のために使用。B4,B3,B2を用いたトゥルーカラー画像。
観測日は2021/5/25と2021/6/4
結果
トゥルーカラー画像(Sentinel-2)
(2021/5/25) (2021/6/4)
2時期のカラー画像(Sentinel-1)
(R:2021/5/26, G&B:2021/6/7)
結果
SAR画像の2時期の変化抽出を行うことによって、船舶やコンテナの移動を判読することができた。
4.2018年広島土砂災害
目的
2018年(平成30年)7月豪雨の広島県での被害状況の把握をSARを用いて行う。
被害の概要
2018年(平成30年)6月28日から7月8日にかけて、西日本を中心に広い範囲で発生した台風7号および梅雨前線等の影響による集中豪雨。同年7月9日に気象庁が命名した。別称、西日本豪雨。広島県では土砂崩れや浸水による被害が相次いだ。県の南部では土石流・土砂崩れが5,000箇所以上で発生(7月16日)。通常は崩落しにくい山頂部の崩壊も多発し豪雨の凄まじさを裏付けた。住宅被害は浸水も含めると7月19日までに38,000棟に及んでいる。江戸後期の文書にも記述が残り、2年前に木製に改修したばかりの長さ約100メートル幅3m弱の「真光寺橋」も流された。
方法&使用データ
豪雨の前後のSARデータを用いて変化抽出を行う。
S1-A_SAR-C_20180616(VV VH)
S1-A_SAR-C_20180722(VV VH)
結果
ALOS-2の結果を比較対象として先に示す。(高分解能3mモード)
前 後
地理院地図で真光寺橋の位置を確認
20180616VV 20180616VH
20180722VV 20180722VH
20180616-20180722VV 20180616-20180722VH
考察
事前に崩壊場所を把握していれば心の目で見れる。水は暗いため橋はわりと分かりやすかった。2時期でマルチバンドで見ると真光寺橋は他の橋に比べて暗いような気がした。今回のように木製のものとコンクリのものなど橋の材質によって見え方は異なるのだろうか。