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2021.11.19

■ 対談企画 ■ VEGA開発の裏側を聴いてみた!

RESTECでは、20219月にVEGA Google Earth Engine Appsを用いた地球可視化ツール)を公開しました。このVEGAはユーザ登録や難しいコードの入力を省いて、操作パネル上で衛星データの検索や表示を無料で行えるツールなので、衛星データには興味があるけどどこから始めればよいか分からない初心者の皆さんにとって、気軽に試しやすいものとなっております。
このツールを企画、開発したRESTECソリューション事業第2部所属の二人に開発の裏側を聴いてみました。

プロフィール

道下亮
ソリューション事業第2部 調査普及課 課長代理
VEGAの企画・開発者。衛星データ利活用促進のためのキャパシティビルディングやユーザリレーション構築に従事。リモートセンシング基礎講座、光学リモートセンシング講座およびGoogle Earth Engine を用いたリモートセンシング講座の講師を担当。 

 

 

 

Pegah HASHEMVAND Khiabani
ソリューション事業第2部 調査普及課 主事
VEGAの開発者。地理空間およびリモートセンシングの専門家。さまざまな外国の研究機関やエージェントと共同で、Google Earth Engineを使った光学式リモートセンシングの最新地上アプリケーションに関する研究、開発、普及など複数のプロジェクトに取り組んでいる。

 

 

 

 

VEGAを制作した背景を教えてください。

道下亮(以下、道下) : 背景は2つあります。1つはGoogle Earth Engine (以下、GEE)の出現です。これまで衛星データを入手・閲覧するにはLandsat-8はアメリカ地理調査所のEarth ExplorerSentinel-1,2であれば欧州宇宙機関のCopernicus Open Access HubEOブラウザへ、それぞれの衛星データ検索・入手サイトへアクセスし、しかもデータを解析・表示するまでには自分でコンピュータとソフトウェアの準備が必要になるなど、とても面倒な作業でした。しかし、GEEが出現したことでウェブブラウザ内のコードエディタでプログラムコードを打てば衛星データが簡単に見られるようになり、しかもさまざまな衛星データを一つの環境で検索・入手・解析・表示することのできる、とても便利な時代になりました。しかし、プログラムコードが分からない人にとってはGEEの操作はまだ難しく、衛星データはまだまだ自由に閲覧できないものであるという印象を持たれていたと思います。

このため、様々なデータが揃っているGEEの環境で何とか自由に衛星データを閲覧する方法はないかと考えていました。以前よりGEEではグラフィックユーザインタフェース(GUI)を使って画像を閲覧するツールを製作できることは知っており、また数年前に開催されたGEEUser Summitで製作方法に関するセッションで基本的な技術を習得していましたので、その技術を使って最低限の機能で誰もが簡単に使える衛星データを見るためのツールが作れたらな、と2020年春ごろから考えるようになりました。

もう1つの背景は研修の面からです。リモートセンシングを初めて学ぶ方が多く受講される『 リモートセンシング基礎講座 』では、本来の目的としては衛星データ判読技術を身に付けていただきたいのですが、受講者からの質問は講座で使用しているGISツールの操作方法に集中してしまい、どうしてもその回答に時間を費やされてしまうことが課題でした。そして同時期に新型コロナウィルス感染症の影響で、私たちが主催している対面講座をオンライン形式に切り替える必要が出てきました。いろいろと検討を進める中で対面講座と同様の教え方をそのまま置き換えると、GISツールの操作説明に時間が費やされ、画像判読の技術を身につける時間の確保が難しいことが判りました。

そこで基礎を学ぶ人が簡単な操作方法で、衛星データの検索・入手・解析・表示方法が理解できるGEEのアプリケーションツールの開発に着手しようと考えました。ところがいざ開発しようとしてGUIの設計案を作ってみるとさまざまな技術的課題に直面し、これは一人ではできない、誰か協力してくれる人はいないかと同僚に聞いて回る日が続きました。そんな時に力を貸してくれたのがペガさんです。ペガさんが解析でGEEをよく使っていることを知っていましたが、アプリ開発は初めてとのことでしたので勉強を兼ねてお願いしました。

Pegah HASHEMVAND Khiabani(以下、ペガ) : 道下さんからアイディアをもらいながら、初めてGEEのアプリを作ってみました。今回製作したVEGAは、リモートセンシングの基礎を学びたいと思っている方にとって、衛星データを視覚的に理解しやすくて、機能として使いやすい見えるツールです。そしてVEGAは、GEEのユーザ登録やデータのダウンロードが不要な点でも手に取りやすいツールだと思います。正直、アプリの開発に自信はなかったのですが、初心者だけではなく潜在的なユーザにとってもシンプルに分かりやすく使ってもらうにはデザインや機能をどうすればよいのか、打ち合わせを重ねて何度もアップデートを重ねて完成させました。

VEGAは初心者の方にとって、とても視覚的に分かりやすいのでまずリモートセンシングをやってみたい、という方が最初に触れていただくツールとしてはとても良いものだと思っています。ですが、この分かりやすさの裏で、実はGEEの機能をフルに活用した、ものスゴイ処理が行われているのです。

道下 : そうですね。今回は分かりやすくするためにLadnsat-82プロダクトとSentinel-21プロダクト、合わせて3種類が使えますが、それぞれの衛星データをダウンロードすることなく同じ画面で重ねて表示してすぐ比較することができるのでとても便利になっています。

ペガ : 地球全体が見られるので、指定して好きな場所を集中して見ることが簡単にできる点も特徴の1つです。開発当初は日本エリアだけを使えるようにしましたが、話し合いの結果、範囲を広げて地球全体を対象に変更しました。そうすることで世界中のどの場所でも、データをダウンロードすることなく見ることが可能となり、リモートセンシングの初心者にとってとても使いやすくなったと思います。通常であれば世界の違う地域を見たい場合は、それぞれ指定した場所のデータをそれぞれダウンロードする必要がありますが、その不便さはVEGAにはありませんのでリモートセンシングの楽しさをそのまま感じていただけると思います。

道下 : 私はこのVEGAが、これまでリモートセンシングに関心のなかった方が衛星データを使うきっかけになればいいな、と思っています。昔から言われている衛星データの三大特徴は①ほぼ同じタイミングで、②広い範囲を③繰り返しの周期で観測できる、という点です。衛星データを触ってもらい、まずはそういった点を最大限に楽しんでもらい、今後皆さんの課題解決のために使っていただくきっかけになればと思っています。まずはVEGAをおもちゃにしてもらいたいですね。我々が思いつかないような使い方をする方も出てくるかもしれませんしね。そこからどんなソリューションができるのか、VEGAを使いながら想像力を膨らませていただきたいと思っています。

VEGAで夏の佐渡島を表示させてみました

VEGAでどんなことが出来ますか?

道下 : まずLandsat-8Sentinel-2のデータの選択をします。他にも少し設定する必要があるのですが、例えば「今年の春から初夏の画像を見てみたい」と思ったら期間(検索開始~終了の年月日)を入力して、その期間に撮影された複数の画像のうち最古の日付、最新の日付、各画素の中間値、各画素の最大値、各画素の最小値か、プルダウンで選択することができます。項目をすべて設定したのに何も表示されない時は、期間などの設定を少しずつ変えて再表示します。従来のソフトウェアではこれらの設定を少しずつ変える作業は面倒でしたが、VEGAではブラウザ上の一画面ですべての設定変更と表示ができることが画期的だと自負しています。

設定する項目を順に追うと①データの選択、②表示方法(グレースケールか、カラー合成か)とバンドの選択、③表示レベル設定、④観測期間設定、⑤データの合成方法(最新/中間値など)選択、の5項目となります。これらをセットして表示ボタンをクリックするだけなのです。オンラインで開催している『 リモートセンシング基礎講座 』の講義・実習ではこれらの各項目について詳細に説明しているので、受講された方には仕組みを理解した上でVEGAを使ってもらえます。

ペガ : 今回VEGAには、地図上のある地点をクリックすると、画面右下に緯度経度と各バンドの画像値が表示される機能を搭載しました。この機能により、例えば植物が活性化しているので近赤外バンドのこの画素は明るい、もう少し離れたところの画素は暗いから植物は活性化していないのかな、ということもクリックするだけで推測できるようになります。画像の撮影年月日も画素ごと分かるようにしましたので、カラー合成をした時にはメモに残しておくのも良いと思います。こういった機能も従来のソフトウェアではツールを起動して行う操作でしたが、VEGAでは利用者の皆さんに簡単に使っていただくため、地図上をクリックするだけで済むようにしました。

 

工夫したところ、難しかったところどんな点ですか?

VEGAの操作画面

道下 : どうしても搭載したい機能があったのですが、GEEの仕様機能のみではそれを構築できないことが判り試行錯誤しました。例えば雲の存在です。我々が主な利用者として想定した初心者の方には、VEGAで単純な操作をすれば必ず雲がない画像がバシッと表示されると期待されるだろうと考えて、なるべくそれに近づけられるような仕様にしたかったのですが、実際は衛星の周期や被雲域の影響でうまくはいきません。葛藤した結果、見たい地域の雲が無い画像が手に入るかは検索して画像を実際見てみないと分からないということを学んでいただくために、期間を設定し、画像合成の選択項目を残すことにしました。

もう一点は表示する画素値の最大・最小値を設定する項目について、慣れた衛星画像解析者は画素値ごとの度数分布表(ヒストグラム)を見ながらその値を決定するのですが、これについては知識と経験が必要ですので、今回は好きな値をテキストボックスに入力してもらい、トライアンドエラーできれいな画像を表示するための設定を覚えていただけるようにしました。込み入った機能を盛り込もうとすればいくらでもできるのですが、衛星データの背景知識がない方が簡単に使えるようにしたかったので、なるべく簡単な操作で済むように設計しました。

ペガ : 道下さんも既にお話していますが、開発時によく議論したのはリモートセンシングの知識がない利用者のために、GEEの機能でシンプルなユーザインターフェイス(UI)をどうやって作るか、ということです。例えば、設定項目の並び順についてもそうですが、実現させるまでに考えるべきことがたくさんありました。項目は選択・設定しやすいよう上から順にしていますが、この並び順はリモートセンシング初心者の方がVEGAに触れていただいた後に “もっと衛星画像を使ってみたい” と思った時に利用するであろうEarth ExplorerCopernicus Open Access Hubなど衛星データ検索・入手プラットフォームの条件項目と同じ順序にしています。そうすることでスムーズに次の段階へ進んでもらえるのではないか、という期待を込めて開発しました。

これまで私は衛星画像の分析をしていたものの、アプリ開発に従事したことはありませんでしたので、UXUI、また利用者の要求とはどんなことだろうか、と考えること自体が私にとって大きな挑戦でした。『 Google Earth Engineを用いたリモートセンシング講座 』の講師を務めている小出さん道下さんとチームでテクニックの共有やたくさん話し合ったこともとても勉強になりました。

 

どのような人に使って欲しいですか?

ペガ : 私が想定していた最も重要なエンドユーザは学校の先生です。学校の先生に授業でVEGAを教材として使ってもらうことによって、生徒・学生にも使ってもらえる機会が生まれます。VEGAは無料ですしパソコンとインターネット以外のリソースは不要ですので、初心者の生徒・学生は気軽に使えます。

また、リモートセンシングの知識がない方々にも活用して欲しいです。もしかしたら政府関係者かもしれませんし、企業の新規事業担当の方、またはベンチャー企業の方かもしれませんが、これまで衛星データに触れたことのなかった多くの方にVEGAを試して欲しいです。VEGAは基本的なリモートセンシングの知識がなくても簡単に使えますので、衛星データに近い人たち、例えばビッグデータを扱っている方々にも使ってみて欲しいです。あとは、本当に気軽に使って欲しいので趣味で地図や地形、鉄道地図を見ている人にも使ってもらえたら面白いな、と思います。

 

VEGAを使うにはどうしたらよいですか?

ペガ : VEGAは本当に簡単なツールです。申込も不要ですし使いたい時にすぐ使えますし、マニュアルも用意しています。マニュアルの番号を見ながら順番に追っていけば誰でもすぐに使えます。その前に、VEGAはオンラインのアプリケーションですのでインターネット環境とパソコンは忘れずに用意してくださいね。

道下 : そうですね、本当に簡単なツールですので教育業界、データサイエンス業界に関わらずいろいろな方に使って欲しいので、まずは触っていただき、皆さんからどんどんVEGAの利用を広めていって欲しいですね。

 

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