TOPICSトピック

2021.06.15

新講師の伊藤拓弥へインタビューしました


RESTEC
リモートセンシング研修の講師は学術的に豊富な知識を持っていることはもちろん、業務を通じてたくさんの実務経験を積んでいます。2020年度後半から『Google Earth Engine を用いたリモートセンシング講座』の講師として活躍している研究開発部環境解析グループの伊藤拓弥にインタビューしました。

 

ふだんの仕事内容は?

リモセンの画像を使った解析研究に関わる仕事ですが、主に森林に関わることをしています。専門的な名前を使うと「森林モニタリング」「森林マッピング」です。「森林モニタリング」とは森林の伐採や植林などの状態変化を調べていきます。一方「森林マッピング」は例えばある指定された区域でどこが森林なのか、またその面積は時間と共にどのように変化しているのか、変化していないのかを見ていきます。近年は国内に限らず海外の森林の動きも担当しています。これまでの経験ですと全球(地球全体)の森林・非森林の分類や、国別ですと主にペルー共和国を担当しています。

森林リモセンを専門に、この道10年以上が経ちました。あっという間ですね。

 

 

ペルーアマゾンの伐採地を上空から撮影
(衛星データによる森林伐採検出結果の検証のためのフライトにて)

 

リモセンに関わるきっかけを教えてください

大学では森林、林業について学ぶ森林科学科を専攻していました。そのため、実習では山へ入り道なき道を歩き、林業に関わる伐採、植林、林道整備、測量のほか、生態系に関わる植生・野生動物調査など、超アナログ、リアルな泥臭い現場を体験しました。それら森林・林業に関わる学問の分野の1つとして、将来どのような森林にしていくか「森林の経営計画を立てる」ことを行うのですが、そこで現状分析や将来像を描く時に衛星データや航空測量データを使うことになり、リモートセンシングを知ることになりました。

幼い時から山が身近にある地域で生まれ育ちましたから、もともと動物や自然が好きでした。特に日本の森林が大好きで林学は森林に関わることすべてを学べるので夢中になりました。切ったり植えたりするだけではなく、木材を加工したりその市場調査もあるし、生態学的なところもあり、幅広い分野に渡っているところにも面白さを感じていました。そうして森林を学んでいざ職業にするときに振返ると、特に面白いと感じていたのがリモートセンシングでより専門的に関わることになりました。 

 

リモセンの面白さはどんなところですか

入手したデジタルデータ画像のどこが森林なのか、結果を導くには裏で計算させるための画像処理をするのですが、その時にパズルを解く感覚があるところが面白いですね。ほとんど思惑通りいかないことが多いですが、解決に繋がるだろうと自分で組み立ててプログラミングをしている時が一番楽しいです。どこに答えがあるか分からないのですが、自分の考えたロジックで解析が出来た時が面白いな、と思える瞬間です。

 

伊藤さんがこれまでかかわった仕事の中で、どのような場面でリモセンが期待されていると思いますか

森林分野は調査対象エリアが広大でなおかつ、人が入りづらい場所もあるため現地で直接測ることはとても難しいですが、そこをリモセンでズバッと見えてしまう点が面白いし、可能性を感じるところでもあります。特に地球全体の調査が可能である点も面白いですね。衛星データの広域性を生かせるのは、日本国内より南米大陸や東南アジア全域を対象としたスケール感など地球規模での解析が多かったですが、森林環境税が施行されてから日本国内のニーズも増えてきました。加えて高解像度の衛星データ画像が増えてきたのも背景としてはあります。
ペルーアマゾンの湿地林
(衛星データによる森林伐採検出結果の検証のためのフライトにて)

新しいソフトやAI、機械学習が出たりしてくるとそれがトレンドとなり解析技術も変わってきます。少し前からですがリモートセンシングも「クラウド」はトレンドでした。インフラが整い衛星データも揃ってきましたので、最近はようやく落ち着きつつありますが、引き続きトレンド上位ではあります。クラウドの主役はGoogle Earth Engine(以降、GEE)ですね。10年後のトレンドは分かりませんが、技術の発展を追いける必要はありますし次世代へ移る現在の姿として、RESTECが行うGEEの講座は時代を先行する意味でも大変重要だと考えています。 

GEEの魅力は衛星データも計算機も“使い放題”というところです。手元に無料で衛星データが手に入り、計算機の能力も十分な解析結果を得られる高性能なものとなっています。そして何よりこれらすべてを誰でもアクセスできるという点が最大の魅力ですね。すべてをGEEの中で完結できることは本当にスゴイと思います。学生時代にGEEがあれば使い倒していましたね。

 

 

 

 

 

ペルーアマゾンの伐採された大木と切り開かれた森林の様子

 

一方で、リモセンで難しいところは?

現場に行かなくても分かることがリモートセンシングの魅力ではありますが、あくまでも間接的な手法なので現状は現場に行って対象物を見てみないと分からない、必ずしもその衛星の画像データで100%判明するものではない点が難しいですね。そのために解析結果を持ち現地へ出向き調査・検証をします。森林の中へしかも日本のようなきれいに舗装された道路などが無い、例えば僕はよくペルー共和国のアマゾンエリアに行くことが多かったのですが、雨が降ると悪路になり距離としてはそう遠くはないはずなのに、なかなか着かないことは多々ありました。車が泥沼にはまって皆で押したのに、結局現地に行けなかったこともありました。アマゾンは熱帯なので雨の少ない時期に行くようにはしていたのですが、なかなか思い通りにいかない難しさを感じます。

衛星データを解析するのも現地調査に行くのも、両方好きですね。もともと学生時代は山に行っていたので、どちらか片方でというのはフラストレーションがあります。

 

これまでは主に海外(ペルー共和国、コンゴ民主共和国など)での仕事が多いですが、現地ではどのようなことをしていますか

二酸化炭素排出削減や生物多様性保全を目的としてアマゾン流域の森林保全を行っていますが、一方で国や地域住民の経済安定のためにカカオやコーヒーなど農業にも力を入れていて、農地転用のための森林伐採も行われています。森林伐採が違法でないか、過剰に行われていないか、その監視をリモートセンシングで行うニーズがあり、現地の方への研修と解析結果の検証を行いました。監視の部分をリモセン技術によって効率化できれば、その先の取締りにも貢献できると期待しています。また、なぜ道路が整備されていないかというと、アマゾンのメイン運搬手段は川なのです。そのため川へのアクセスが良いところから森林伐採がされていきます。現地に行かないと分からない、見えてこない情報があるため、現地調査・検証の重要さを感じます。

一方、コンゴ民主共和国では2週間研修の講師をしました。外国人が珍しいみたいでどこに行くにも歓迎をされて、スーパースターのような写真撮影を求められて対応するのが大変でした。事前の予定よりもたくさんの方が出席してくれたのも驚きましたが、皆さん真面目に学ぼうとしてくださり、毎回熱気を感じながら講義をしてきました。

 

 

 

 

 

 コンゴ民主共和国での研修の様子

 

現地ではどのようなリモセン技術が求められていますか

ペルーは国土が広いため、リモートセンシングで広い国土を監視したい、という需要があります。国の経済発展のための開発も求められていますが、それと同時に京都議定書、パリ協定への報告という国際的な国の責任もあります。その手段としてリモセンの技術が求められています。またコンゴ民主共和国も国土が日本より広いことに加え、地域によってはまだまだ治安が安定していなかったりするので、衛星などリモセン技術を使った監視が必要とされています。今後、いろいろな分野での活用が望まれています。

ペルーもコンゴ民主共和国も、どちらも日本よりも広大な国土を有しており、また車でアクセスできないところが多いです。広大な土地を監視するために衛星を使ったリモートセンシングの活躍の場は多いのではないかと思います。

 

 

 

ペルーアマゾンのカカオ農園(森林の農地転用の例)

 

2020年度からは対面講座の講師として担当した講義はすべてオンライン形式の開催でしたが、講義する上で難しさなどはありましたか

オンライン形式では受講される方の反応や進捗状況などが見づらい点が難しいです。こちらでお伝えした内容がどこまで理解されているか、反応や表情が見えないので難しさを感じました。一方で、自分の講義資料をPCの画面いっぱいにして講義が出来ますので説明しやすかったです。メリットとデメリットがあると思いました。

 

研修の講師をやる楽しさや喜びはどんなところですか

単純に受講者の方から「受講してよかった」という感想を言ってもらえるのがうれしかったです。教えるのは好きなので、伝えたことを分かってもらえたという喜びがあります。そして、受講したことをきっかけにして新しい世界や新しい業務に生かしてもらえた、ということが分かるとより一層のやりがいを感じます。

 

これから『Google Earth Engine を用いたリモートセンシング講座』研修を受講しようかと迷っている方に一言!

失敗を恐れずにやってみましょう!

今まではパソコン、ソフト、衛星データを高いお金で買う必要があり、更にパソコンを壊すのではないかという心配がありましたが、GEEはウェブ上なので壊れる心配はありません。データが消える心配もないです。最初プログラミングに抵抗を感じる方も居るかもしれませんが、簡単な命令文の羅列なので実は難しいことはやっていません。恐れず、まずは動かしてみましょう。

プログラミングを知らない人、少しかじっただけの人でも大丈夫です。GEEにはコードと呼ばれる命令文のサンプルが用意されています。自分で書き換えていると「動かない」などの失敗はありますが、間違っていたら修正していけばいいだけです。間違いを特定して動いたときの楽しみもあります。お試しツールという点でもGEEは使いやすいので、やってみた精神でやるのも良いですよ。

もっと知りたい、使いたい方はプログラミングを別途勉強する必要が出てくるかもしれませんが、まずはGEEとはこういうものなのか、それで何が出来るのか、ということを研修で触れて知ってみるのはいかがですか。

 

TOPへ