リモートセンシングの基礎知識をお持ちの方で、光学データをこれから扱いたい方を対象に開講している光学リモートセンシング講座は光学センサの仕組みや解析技術について、実習でソフトウェアを使用しながら理解し、総合演習で実践的に課題解決できる技術を身に着ける講座です。ここでは、2021年5月27~28日に開講した光学リモートセンシング講座で実施された総合演習の結果をご紹介いたします。
1.乾燥による地表面状態の変化抽出
対象範囲
・2018~2021年の4年間におけるアメリカ中央部の穀倉地帯の地表面状態
・もし2021年が乾燥・冬小麦不作なら…他の3年と比較してNDMI(正規化湿潤指数)の値は低く・NDVI(正規化植生指数)の値は低くなるはず
まとめ
・今回の解析では、2021年でNDMI・NDVIの値が他の年より低くなるような様子は見られなかった
・NDMIでは2019年で、NDVIでは2020年で値が他の年より低いと考えられる
・乾燥が激しいカリフォルニア州を対象範囲にするか、冬小麦の生育タイミングを把握してから比較時期を検討すると当初の目的の乾燥による地表面状態の変化はとらえられるかもしれない
2.石川県の新緑の検出
テーマ
最近の石川県白山市の白山周辺の雪解けに伴う、植生の変化について光学衛星により検出を行う
使用したSentinal-2について
・B4,B3,B2を用いたトゥルーカラー画像、B8,B4を用いたNVDI画像を作成
・2時期のNDVIの差の空間分布を示した画像を作成し、植生の変化の検出を行った
3.蔵王山付近の植生分布調査
目的
蔵王山付近の植生をNDVI等のパラメータを算出し比較する
衛星:Landsat-8
時期:2020年08月23日
まとめ
・NDVIより西の方が植物がよく発達しているように見える
・NDMIより西の方が土壌が湿潤状態で少し濃く見える場所がある
・NMRより植物の水分量はあまり変わらないように見える
4. Landsat-8の光学データを用いたアラル海の近年の変動考察
背景-アラル海について
・中央アジアのカザフスタン、ウズベキスタンにまたがる塩湖
・1960年代までは世界第4位の面積を誇り(日本の東北地方に近い広さ)、旧ソ連の綿花栽培用の農業用水や漁業資源として重宝されてきた
・アムダリア川・シルダリア川への水の流出により湖面が干上がり、二十世紀最大の環境破壊といわれている
・小アラル海は堤防を建設して保護、一方大アラル海は2005年に東西に分断される
目的
・20世紀はアラル海の環境破壊に終始してしまったが、近年は環境保護活動なども行われ、干上がりに歯止めをかけようとしている。
・近年の環境保護活動の成果は表れているのか
・ここ数年のアラル海の変動について、衛星データによる目視調査と、Band値をもとに機械学習を利用した土地被覆分類を行い、近年のアラル海の変貌について考察する
結果:TrueColor画像
・北部の小アラル海はほとんど変化がない
・南部の大アラル海は、西側で東岸の土砂の進出が進み、東側では北部方向にかなりの流域が侵食されていた
結果:土地被覆分類画像
白色物の影響が大きく作用してしまい、2019年の西部大アラル海の分類をすることが不可能となっている。そのため、緑色水面もほとんど見られなくなっている。また、ほとんど変わらないはずの小アラル海について、2013年では土壌と判定されてしまった。
結果:NDMI画像
東側で北部方向にかなりの流域が侵食されていた大アラル海は、侵食されたところのNDMIが高く表れた。これは、侵食による湿地化であると考えられるが、雲の影響を減じることができないため、その影響も考えられる。
青色が2019年に増えたBand2の値
黄色が2019年に減ったBand2の値
大部分で、2019年の白色部分の影響が出てしまっている。これは雲(筋雲、うろこ雲)が大部分であるが、土地に沿って存在しているところもあり、地表面の白色物の可能性も考えられる(雪や塩?)
考察
・21世紀も大アラル海に関しては湖面の干上がりが顕著であり、悪化が進んでいる
・東西どちらも干上がりが進んでいるが、西側は東岸から、東側は南岸からの浸食が激しい
・陸地が侵食したところは、当然土壌水分の値も高く出ていた
・小アラル海に関しては目立った変化はなく、堤防などの水資源管理が功を奏していると考える
このように総合演習の課題はご自身の興味関心分野などをテーマにすることが出来ます。実際に手を動かして衛星データを使うと講義だけでは分からなかった発見や楽しさが感じられるはずです。光学リモートセンシング講座を受講してみませんか。