◉ 星野 卓哉 (経営コンサルタント)
「時に『宇宙ビジネスの衝撃』とか聞くが、今日はその俯瞰図についても衛星写真ビジネスについてもよくイメージすることができた。」「政府が宇宙『利用』産業の市場規模を現在の約8,000億円から2030年代早期に1兆7,000億円~1兆8,000億円へと倍増させるなら、衛星写真ビジネスを含む議論の進化や異業界への広がりが不可欠ではないか。」「本日のご講演のように、衛星写真ありきではなく、ビジネスのストーリの中での位置づけや、価値創出などとの関係も踏まえて考えることがますます求められるだろう。」・・・
10月下旬のある日、東京都内の品川にて、「大手50社部長会」の定例会で、「衛星写真を用いたビジネスモデルの構築法と課題」を題とした講演をさせて頂いた。冒頭で記したのは出席された方々からの感想やコメントなどの一部である。1社1人以上の出席もあって、実際は研究開発、新規サービス企画、マーケテイング、経営戦略などに取り組む70名近くの方々が来場し、質疑応答や率直な議論はその後の懇親会まで続いた。
筆者は前回の雑感3の中で、「世の中、新たなビジネスの創出をめぐる議論には、いまだにリモセン技術論が主流であり、ビジネス創出論の不在が衛星写真ビジネスをめぐる議論の死角になっているのではないか」と指摘した。冒頭で記した感想やコメントからもそのように共感して頂けるかと思うが、誤解を招いてしまったら困るので、その指摘にはリモセン技術論の必要性を否定する意味はなく、今後も重要だ、と一言付記しておく。
筆者が言いたいのは、リモセン技術論からビジネス創出論へと議論を進めて行かなければ、前述した「市場規模の倍増」などはおそらく無理だろう、ということである。なんとなくわかる気もするが、リモセン技術論とビジネス創出論とは具体的にどこが違うか、と聞く方もいるだろう。どこまでなら「具体的」といえるか、読者によって感じ方が違うだろうが、紙幅の関係もあるので、以下では端的に例示してみよう。
まず、リモセン技術論の観点からいうと、たとえば、衛星リモートセンシングの原理、衛星に搭載されるセンサ技術、衛星の種類、空間的・時間的分解能の意味、衛星写真の解析技術(画像処理技術)、特定の分野(防災、森林、農業など)や利用目的(把握、分析、予測など)における利用可否の検証などが挙げられよう。
次に、ビジネス創出論の観点、とりわけビジネス創出に不可欠なビジネスモデル構築方法の観点からいうと、たとえば、誰が想定顧客か、衛星写真を使うことによって提案できる新たな顧客価値とは何か、衛星写真を使う場合に必要な業務プロセスや経営リソースはどうなるか、競争優位性とはどういう関係にあるか、衛星写真もしくはその代替品の選択や、その選択による収益性/事業性の有無をどう判断するか、が挙げられる。
このように見てみると、リモセン技術論とビジネス創出論とは実に違うことがよく分かるだろう。ある意味、リモセン技術論とビジネス創出論の間には大きな壁が存在し、衛星写真の利活用は、技術者か利用経験者の世界に閉じ込められている。もし新たな衛星写真ビジネスの創出を熱望するならば、この壁を破らなくてはならない。そして、リモセン技術論からビジネス創出論へと進んで行かなければならない。
最終的に、衛星写真ビジネスに限らないかもしれないが、顧客の課題解決に向けて、事業(サービス)的に活かせることに繋がるビジネス創出論を念頭に置いたリモセン技術論も求められることになるだろう。
先日、日本スペースイメージ社の上田社長は「・・・衛星写真をそのまま提供するのではなく」、「お客さまとともに新しい情報サービスを育てたい。」と述べられている(GIS NEXT, No.68, 2019)。これは今回の雑感にも関係し、重要な転換も意味する興味深いメッセージである。
◆ リモセン雑感3|問題提起!衛星写真ビジネスの議論の死角か
星野 卓哉(ほしのたくや)
経営コンサルタント。
長年、衛星リモートセンシング業界にも身を置き、
調査研究、経営コンサルティン、新規サービス開発、人材育成などに取組む。
産学官各界における講演多数。